「死んでもいいわ」検証(跡地)

(2019年2月8日追記)「死んでもいいわ」検証は「月が綺麗ですね・死んでもいいわ」検証に統合。

二葉亭四迷が「I love you」(に相当するロシア語)を「死んでもいいわ」と訳したとされる都市伝説の検証。

※(注意)二葉亭四迷が「I love you」(に相当するロシア語)ではなく「Ваша」(英語で言う「Yours」、日本語で言う「あなたのもの」に相当するロシア語)を「死んでもいいわ」と訳した事は確認済みである。

「死んでも可いわ…」とアーシヤは云つだが、聞取れるか聞取れぬ程の小聲であつた。

国立国会図書館デジタルコレクション - 片恋

- Ваша... - прошептала она чуть слышно.

Ася. #16. И. С. Тургенев.

現在の検証の核心は翻訳元の言葉が「I love you.」として伝わるようになった経緯についてである。

資料一覧

米原万里『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』、新潮社<新潮文庫>、1998年1月1日発行、2010年11月20日24刷

不実な美女か貞淑なブスか

第三章 不実な美女か貞淑な醜女か 4 字句通りの舌禍

ツルゲーニェフに『アーシャ』という中編小説がある。(中略)そしてある日主人公はアーシャからの手紙を受け取り、指定された場所に会いに行く。みるからに面やつれしたアーシャは、物怖じした小鳥のように震えながら、彼に「Я люблю вас(I love youに相当)」と愛を告白する。この中編を『片恋』と銘打って本邦初訳した二葉亭四迷は、明治時代の読者を相手にしていたわけで、ここの台詞を「死んでも可いわ」と訳している。

(169~170頁)

巻末の編集部注によると、2006年4月19日に上記に対し読者からの指摘が届けられ、それによると「アカデミー版ツルゲーネフ全集第五巻を購入してАсяを四迷の訳文と対照してみたところ、何とЯ люблю васなどという文章は片鱗もありませんでした。(中略)要するにВаша…というロシア語を『死んでも可いわ』と四迷は訳したのです。」との事(Вашаは英語で言うyoursに相当)。米原さんはこの指摘に対し「『不実な~』を書く際には訳文しか確認しておりませんでした」と返答

上田昌孝『上場企業、外資企業のトップを務めた経営者が説く「発信力」の磨き方 実践編』、インプレス、2014年1月20日発売

第2章 実践!「共有する」コミュニケーションの訓練法

実践4 英語を習得しよう

今は、スマートフォンの翻訳アプリケーションもありますし、インターネットでも英文を入力すれば、ある程度意味が理解できる精度で翻訳してくれます。しかし、英語の原文と翻訳して日本語で行うコミュニケーションはまったく別のものだと考えた方がいいでしょう。翻訳した文章には、翻訳者の意図や解釈が追加されます。正しい、正しくないということではなく、それはもはや別のものです。

また、同じ内容のことを英語で聞いた場合と、日本語で聞いた場合とでは、内容についての理解の「仕方」が違い、感情的なレベルでの印象も違う可能性があります。つまり、言語には「ニュアンス」あるいは「文化的背景」が含まれるのです。

「I love you」という英語の文章があります。明治時代の文豪、夏目漱石はこれを「月がきれいですね」と訳し、二葉亭四迷は「わたし、死んでもいいわ」と訳したと言われています。文豪の訳は素敵ですが、日本人が一般的にこの文章を聞くと、「あなたを愛しています」という意味で受け取り、それ以外のニュアンスを受け止めることはほとんどないのではないでしょうか。

この「I love you」がある映画のセリフとして使われた場合、もし別れ際であれば、「行かないで」という意味になりますし、「早く帰ってきてね」、あるいは「あなたがいなくて淋しいわ」という意味合いが含まれるかもしれません。

ここでは、二葉亭四迷が「わたし、死んでもいいわ」と訳した対象を「I love you」という英語の文章としている(「I love you」に相当するロシア語云々及びツルゲーネフの小説への言及は無い)。

夏目漱石の逸話については「月が綺麗ですね」検証を参照。

著者:望月竜馬、イラスト:ジュリエット・スミス『I Love Youの訳し方』、雷鳥社、2016年12月24日第1刷発行

I Love Youの訳し方

まえがき

日本でもっとも有名な文豪のひとり、夏目漱石。旧千円札の肖像だったことでも知られています。彼はかつて、英語教師をしていました。ある日、生徒のひとりが"I Love You"を「我君ヲ愛ス」と訳しました。すると漱石は「日本人がそんな台詞を口にするものか。『月が綺麗ですね』とでも訳しておけ。それで伝わるものだ」と言った、そんな逸話があります。同様に、小説家の二葉亭四迷が"I Love You"を「死んでもいいわ」と訳した話も、漱石との対比としてよく挙げられます。いずれも都市伝説のようなもので、彼らが本当にそんなことを言ったのかどうか定かではありません。

(2頁)

この『I Love Youの訳し方』という本は、色々な小説・誌・手紙から選りすぐった100通りのI Love Youの出典を紹介する本である。ただ、まえがきで挙げられた夏目漱石と二葉亭四迷については「都市伝説のようなもの」と踏まえた上での紹介なので出典は特に書かれてはいない。

【大喜利】「月が綺麗ですね」だと!? かぶれ告白への華麗な返し「OK&断り」8選、Menjoy!、2017年11月5日、2017年11月7日確認

まず『月が綺麗ですね』については、飯間浩明(辞書編纂者)の調べによって1970年代のエッセイ・対談までしか確認できない旨が述べられている。また『死んでもいいわ』についてはツルゲーネフの『片恋』を二葉亭四迷が訳したバージョンが存在している事と、その原文が『I love you(に相当するロシア語)』ではなく『ваша(英語のYoursに相当=あなたのもの)』である事が書かれている。それらを前提にした上で見出しにあるような大喜利に続くという構成になっている。

参考1:飯間浩明さんのツイート
参考2:飯間浩明さんのツイート

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